大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和26年(う)89号 判決 1952年3月20日

控訴人 被告人 堀川智嘉志 外一名

弁護人 豊田秀男

検察官 大町和左吉関与

主文

原判決中被告人堀川智嘉志に対する部分を破棄し、之を岡山地方裁判所に差戻す。

被告人塩見夏夫の本件控訴を棄却する。

理由

弁護人豊田秀男(被告人堀川智嘉志)同福田源一郎(被告人塩見夏夫)の控訴趣意は各記録編綴の同控訴趣意書記載の通りであつて茲に之を引用する。

弁護人豊田秀男の控訴趣意につき

第一点原判決は法令の適用に誤りがあるというのであるが原判決は判示第一において被告人堀川智嘉志の(一)乃至(十一)の所為を常習と認め暴力行為等処罰に関する法律第一条第二項、刑法第二百八条、第二百二十二条第一項を適用し、右判示(一)乃至(六)の行為と(七)乃至(十一)の行為との間に確定判決(昭和二十四年十月二十八日頃確定)があるので右判示(一)乃至(六)と判示第二とを併合罪とし、主文において右判示第一(一)乃至(六)判示第二の罪に対し懲役一年六月に、判示第一(七)乃至(十一)の罪に付て懲役一年の刑に処する旨言渡している。

然しながら右被告人の判示第一の(一)乃至(十一)の所為を暴力行為等処罰に関する法律第一条第二項の常習罪と認定する以上最後の犯罪時における包括単純一罪として処断すべきで之を判示の如く分離して二罪として処断したるは明らかに違法であつて判決に影響を及ぼすべきものと認められるので到底破棄を免れぬ、論旨は理由がある。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長裁判官 柴原八一 裁判官 秋元勇一郎 裁判官 高橋英明)

弁護人豊田秀男の控訴趣意

一、原判決は法令の適用に誤りがありその誤りが判決に影響を及ぼすことが明かであつて刑事訴訟法第三百八十条第三百九十七条により破棄を免れないものと信ずる。

(イ)原判決は、その理由第一に於て被告人が常習として昭和二十三年八月初頃より昭和二十四年十二月十五日迄の間十一回に亘る脅迫、暴行の事実を認定しこれを暴力行為等処罰に関する法律第一条第二項違反罪と認めた(原判決の法令の適用に誤りがあること後記詳述するところであるが少くとも原審が前記理由第一の事実を前記法条違反の罪と認めたことは右事実摘示の方法と適条の模様からして断定し得られると思う)

(ロ)常習として暴行、脅迫等暴力行為法所定の刑罰法令違反の行為を為した場合は其の各個の暴行、脅迫等の行為に拘らず暴力行為法第一条第二項違反罪の単純一罪であつて各個の暴行、脅迫の行為を分離して独立した犯罪と見るべきものでないことは特に説明の要なき事実である。もとより数個の暴行、脅迫の行為を常習性なきものとして各別に暴行罪脅迫罪の成立を認めることも事実認定の適否の問題は兎もあれその事は為し得ないことではない。しかし既に其等の行為が常習として行はれたものと認定した以上は之を一箇の単純一罪として取扱う以外に方法はない筈である。

(ハ)然るに原判決は被告人に昭和二十四年十月二十八日確定の確定判決ありとして前記十一箇の暴行脅迫行為を一旦は単純一罪としつゝ後之を右確定判決の前後に分割して(一)乃至(六)の行為を内容とする暴力行為法違反罪と(七)乃至(十一)の行為を内容とする暴力行為法違反罪との二罪として夫々科刑を行つているのである。

(ニ)或は説を為して原審はその理由第一に於て頭部より(一)乃至(六)を内容とする暴力行為法違反罪と(七)乃至(十一)を内容とするそれとの二個の犯罪を認定したものであると強弁する者があるかも知れないが、然りとすれば事実の摘示を明白にその様に改めるのでなくてはその様に解釈することは出来ない。原判決は前記(イ)に於て論定した如く明に(一)乃至(十一)の行為を内容とする暴力行為法違反の単純一罪を認定したものと解する他ないのである。

然りとすれば単純一罪に何故に二個の刑が二重に科せられたのか原判決は法令の適用に誤りがあると謂はねばならぬ。

(ホ)刑法の改正により削除せられた刑法第五十五条の連続犯については確定判決によつて連続関係は遮断せられるとすることが判例のとつて来た解釈であつた。しかし右の場合は本来独立して処罰すべき犯罪を科刑上一罪として取扱うものであるが故に生ずる適条の妥当性から来た結果であつて本来の単純一罪である本件の如きに類推し得ざる解釈である。

本件に於ては暴行罪、脅迫罪が個々独立に成立するものではなくて常習として暴行行為、脅迫行為をしたという一個の暴力行為違反罪である。原審が単純一罪たる本件につき科刑上の一罪たる連続犯と同様の解釈によつて確定判決の前後に二分したとするならばその誤りたること明白である。

(ヘ)以上原審は一罪につき二重に処罰した違法あり、若し原判決の(一)乃至(六)の行為に対する処罰が有効のものとすれば(七)乃至(十一)部分は無罪とせられるべく(七)乃至(十一)の行為に於ける科刑にして有効ならば(一)乃至(六)の部分については無罪の言渡が為されねばならぬ。

右は判決に影響を及ぼすこと明白であり原判決に冒頭記載の如き違法があること明かであると謂はねばならぬ。

(その他の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例